東京オリンピックが白熱しています(本稿は2021年8月1日記載)。日本のアスリート勢が大いに健闘し、メダルラッシュです。連日のドラマに胸が躍ります。世界中から集まったトップアスリートたちが、頂点を極めようと夢に向かう姿に勇気を感じ、勝者や敗者の涙は、純粋に心に響きます。
スポーツの試合の中で、勝負の行方を左右する、何か不思議な力を感じることがあります。力や技がぶつかり合うなかで、偶然というか、運が作用していると感じる時です。それは、その時その空間を司る「勝負の神様」の仕業かもしれません。スポーツの勝負は「筋書きの無いドラマ」と言われたりもしますが、そんなドラマを観戦して感動するのは、勝敗を超えた、より高次なアスリートの純粋性にあるのではないでしょうか。
さて、履正社高校卒業生の林大地選手がサッカーに、山田哲人選手が野球に、日本代表として出場しています。林選手は6月の段階で五輪メンバーではなくサポートメンバーでした。しかし、大会前の強化試合で頭角を現し、レギュラーに上り詰めました。猪突猛進な攻めのプレイに付いたあだ名は“ビースト”だそうです。山田選手は今や日本球界の代表的存在です。「侍ジャパン」の主要メンバーとして旋風を巻き起こしてほしいものです。
五輪のアスリートたちに関心を向けながら、私はアメリカで大活躍するメジャーリーガー大谷翔平選手にも目が離せずにいます。二刀流、投げても打っても超一流。巷間言われるように「この惑星で」「この銀河で」まさに“唯一無二”という言葉がふさわしい存在。野球の技術だけではなく、身長190センチ余りという恵まれた体格やさわやかな笑顔、礼儀正しい立居振る舞いはアメリカで誰からも愛されています。漫画の世界でしかいないような選手です。
雑誌のインタビューで「160キロを言い始めたとき、周りは無理だろうと思っていたみたいですけど、無理だと思われていることにチャレンジするほうが、自分はやる気が出るんです。」と語っています。なんというチャレンジ精神。子供たちをはじめ老若男女を超えて影響を与える存在です。
大谷選手が花巻東高等学校野球部で活躍したとき、キャプテンだった大澤永貴さんは、宝島社から発行された「証言 大谷翔平」で大谷選手と過ごした当時のことを語っています。
「僕らも(大谷選手が)別格なのは理解しています。そんな翔平が一番、野球に熱心で努力しまくる。とにかく現状に満足せず、向上心の塊のような感じで、もっともっとと練習すれば、『あーあ、翔平がまた始めたよ。しゃあねえなあ』と、やるしかなくなるじゃないですか(笑)」
「で、自然とチームが強くなっている。練習もやらされているんじゃなくて、なんか、普通にガンガンやっちゃうんですよ、翔平がいると」
人が成長するうえで自分の周りにいる人々から受ける影響はとても大きい。一生懸命頑張る仲間がいる環境に身を置くことで、ぐーんと伸びるものです。同じ将来の目標を持つ者同士が切磋琢磨することは、更なる高みへ向かうかけ橋になる。
「しゃあねえなあ」と言って笑った大澤さんは、筑波大学から社会人野球に進む。引退した後は、高校野球の指導者への道に進む予定だそうです。「世間ではスーパースターのようにもてはやされる大谷が、どれだけ情熱をもって努力してきたのか。その『たゆまぬ努力』と『たゆまぬ情熱』を指導者となって伝えたい」と綴られています。大谷翔平という稀有なアスリートのひた向きと純粋性が、人を動かしていると感じずにはおれません。
オリンピックもあと1週間余り。次いで今月下旬にはパラリンピックが始まります。大谷選手はまだまだ進化していくことでしょう。
今年の夏は感動の連続。その熱量から皆さんの心にスイッチが入ればいいなと、テレビの前で思う次第です。
出典:大谷翔平86のメッセージ(三笠書房)
証言 大谷翔平(宝島社新書)