CLOSE

理事長だより

vol.57「ビタミンの発見は日本人」

12月13日は「ビタミンの日」だそうです。
あまりなじみはありませんが、なぜ12月13日が「ビタミンの日」なのか。それは日本人が世界で初めてビタミンを発見し、1910年(明治43年)に発表した日だからとのこと。発見したのは東京帝国大学名誉教授の鈴木梅太郎博士。ただしノーベル賞受賞に値する偉業を残しながら、鈴木博士の名前を知る人はほとんどいないのではないでしょうか。113年前の明治時代にビタミンを発見した日本人がいた。ちょっと興味を持ち、調べてみました。

江戸から明治に変わり、大正、昭和初期まで多くの日本人は脚気に悩まされていました。脚気はビタミンB1の不足で発症しやすい 病気です。今ではこの病で亡くなることは滅多にありませんが、食欲不振、倦怠感やしびれ、脚がむくみ、やがて歩けなくなる。放置すると心不全を起こし死に至る。当時は国民病として恐れられていました。

今では白米中心の食生活が脚気の原因と分かっています。しかし、当時は知る由もありませんでした。白米は玄米を精米しビタミンB1が豊富な胚芽を取り除いたもので、名前の通り白くて柔らかい別名「銀シャリ」は、とても美味しい日本人の主食です。江戸時代、白米は身分の高い人しか食べられない高価なものでしたが、中期になると都市部を中心に庶民も口にするようになっていきました。明治になって日清戦争のとき、お腹いっぱい白米が食べられると入隊した兵士も多くいたと言います。
鈴木博士は1901年(明治31年)から06年(明治39年)までドイツのベルリン大学に留学しました。ドイツから帰国してすぐに米の研究を始めるのですが、そのきっかけは外国人に比べて日本人の体格が貧弱なのは主食が米だからではないかと考えたからだそうです。また恩師から「欧州の学者が研究していることよりも、東洋における特殊な問題を見つけるのがいいだろう」とアドバイスを受けたと鈴木博士著「ヴィタミン研究の回顧」に書かれています。
そこで鈴木博士は白米だけ、玄米だけ、白米と米ぬかを混ぜたものを鶏にそれぞれ食べさせてみました。すると白米を食べた鶏がよろよろと歩き出し、脚気に似た症状を起こして死んでいったのです。白米と玄米の違いは胚芽があるかないか。胚芽や米の皮の部分にあたる米ぬかに有用な成分があるのではと研究を続けました。

そして1910年脚気を予防する成分を米ぬから抽出することに成功。新しい栄養素であることを突き止め、「オリザニン」と命名しました。「オリザニン」とは稲の学名だそうです。

博士は研究成果を東京化学会で発表しましたが反響がなく、ドイツの化学雑誌に小さな記事が掲載されただけでした。しかし、鈴木博士とは別に同様の研究をしていたポーランド人の生化学者フンクが1年遅れて「ビタミン」と名付け発表。フンクの論文はイギリスの学術雑誌に掲載され、大きな反響を呼びました。発見は鈴木博士の方が早かったのにタイミングとアピールが上手くなかった。博士は回顧録で「1912年、独逸化學雑誌に掲載したのであるけれど、初めは日本文のみで発表した為に、素より外國人の目には触れず、恰もフンク氏より後れたかの観を呈したのである」と記しているのです。さぞやくやしかったことでしょう。なぜに日本語で発表とは。とても残念に思います。ただ受賞はできなかったけれどノーベル賞の候補にはあがりました。

鈴木博士はB1の発見以外にも「国民糧食の安定及び改良」の標語のもと各種加工技術の発明や日本最初の育児用粉ミルクの開発なども手掛けたそうです。粉ミルクの開発は新生児の成長に大いに役立ち、これも画期的なもので高く評価されています。鈴木博士のように、一般的にあまり知られていないけれど、偉業を成し遂げた先人の存在を知ることは嬉しいし、学ぶことが多い。明治時代に世界の学者と対等にノーベル賞級の研究をしていたなんて、凄いことだと思いませんか。

脚気は、特にこどもが一度かかると数日で死んでしまうこともあったため「三日坊主」とも呼ばれていたそうです。今では飽きっぽく長続きしない人のことを言いますが、脚気から由来しているという説もあります。
鈴木博士の回顧録は「なんの研究でもさうだが、かういふ研究は全く根氣が續かなくては駄目である。折角始めても、途中で止めては何にもならない。(中略)倦まず(うまず)にやつたならば、今後も何か面白いことが出来るだらう」と締めくくられています。
三日坊主では何も生まれず根気が必要。確かにそうですね。

【参考資料】

■「ヴィタミン研究の回顧」(著者:鈴木梅太郎・発行:青空文庫POD)

■「教科書には載っていない大日本帝国の発明」(著作:武田知弘・彩図社)

ビタミンQ&A(よくある質問) | 日本ビタミン学会 (vitamin-society.jp)

くすりのあゆみ | くすり研究所 | 日本製薬工業協会 (jpma.or.jp):

鈴木梅太郎のビタミンB1の発見 | 東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻/応用生命工学専攻 (u-tokyo.ac.jp)

鈴木梅太郎博士ビタミンB1発見100周年祝賀事業 | 公益社団法人 日本農芸化学会 (jsbba.or.jp)

3代将軍徳川家光、14代将軍徳川家茂も罹った恐怖の病気|セレブ病だった「脚気(江戸煩い)」 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト (serai.jp)

ビタミンを発見したのは日本人!? 「オリザニン」と命名された新物質の正体とは/人類なら知っておきたい 地球の雑学(100) – レタスクラブ (lettuceclub.net)

鈴木梅太郎がノーベル賞を逃した理由は?ビタミンB1発見のきっかけは | 和樂web 美の国ニッポンをもっと知る! (intojapanwaraku.com)

脚気(かっけ)の原因 症状・疾患ナビ | 健康サイト (alinamin-kenko.jp)

脚気の発生:農林水産省 (maff.go.jp)

前の記事 記事一覧 次の記事
オープンキャンパス資料請求