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理事長だより

Vol.11 「人間万事塞翁が馬」

2月は、来たるべき春からのステップに向けて、皆さんそれぞれに新しいフィールドに立つ準備の時ですね。中には自分の思い通りにいかない人もいると思います。けれどもこの結果で全てが決まる訳ではありません。

「人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)」という古代中国の故事があります。この場合の人間(じんかん)とは世の中という意味です。「なんて不幸だ!ついていない!」と思っていることが、結果的にはそのお蔭で良かったということがある。その逆に「なんて幸せだ!ラッキー!」と思っていたことのせいで上手くいかないこともある。禍や幸運は予測できず、人生は何が起きるか分からない。だから一喜一憂する必要はないということを言っています。諺で言うと「楽あれば苦あり」と「禍を転じて福となす」を合わせたような意味になるでしょうか。

漢文の授業で習った人もいると思いますが、この言葉の語源は、中国の北辺の塞(とりで)のそばに住んでいた老人(翁(おきな)この人が塞翁)の馬が逃げたところから始まります。これ自体は不運ですが、数か月後、逃げた馬が駿馬を連れて戻ってきました。まさかの「ラッキー!」という展開です。しかし、駿馬に乗った塞翁の息子が落馬し、脚の骨を折ってしまいました。ところが、しばらくして戦が始まり多くの若者は徴兵されて命を落としたが、息子は骨折のため徴兵されず、命を落とさずに済んだ。というお話です。

同じことを「iPS細胞」の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授が高校生への講演会や近畿大学の卒業式で言っておられたそうです。「ぼくの人生はまさに『人間万事塞翁が馬』と思える出来事の連続です」と「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」というインタビュー本でも語っています。神戸大学の医学部を卒業し、最初に勤務した病院は最新の設備が整い「なんてラッキーなんや」と思っていたら、厳しい指導医に「ジャマナカ!」と叱責され続け、整形外科医としても手術がうまくできなかったそうです。それは弱点となり、患者さんを治療する臨床医は無理なのではという壁にぶち当たります。でもそのお蔭で研究者の道に進み、ご存じのようにノーベル賞受賞につながりました。そんな山中教授であっても、ノーベル賞を受賞し注目されたことで、その後の研究過程に起こる不祥事により2回謝罪会見をしたというマイナスの経験をすることにもなったと話しています。
ノーベル賞受賞という科学者が、故事を大切に思っている。逆に思っているからこそ、成功したのかもしれません。

山中教授の例のように「不本意だ!」と思っていても、結果それが良かったということが少なくありません。皆さんのこれからの人生、良いこと、悪いことをたくさん経験することと思います。上手くいかなかったときに振り返って下さい。「塞翁が馬」は「心が少し軽くなる」そんな言葉だと私は思っています。逆に上手くいっているときは「勝って兜の緒を締めよ」という気持ちをお忘れなく。

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