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理事長だより

Vol.8 「工業の無限の価値」に感服

先日、山口県宇部市にて宇部興産株式会社(略称:UBE)の事業を見学するツアー、「大人の社会見学・セメントの道」に参加しました。UBEグループは「化学」「建設資材」「機械」の3事業からなり、セメントをはじめとする建設資材から医薬品、ひいては宇宙船や人工衛星を守る耐熱材料の生産まで多岐にわたる大手総合化学メーカーです。

このツアーでは採掘される「石灰石」が「セメント」になるまでをたどります。 まずは石灰石の宇部伊佐鉱山の見学からスタート。幅1.2㎞もある鉱山の底には水が溜まり、まるで綺麗なエメラルドグリーンの湖のようで、白い石灰石との対比が神秘的です。

次に訪れたのが二か所のセメント工場を結ぶ日本で最も長い私道「宇部興産専用道路」です。その距離なんと約32㎞!間に全長1.2㎞の興産大橋もあり、梅田から神戸三ノ宮ぐらいの距離を一般道では走れない全長約30m、総重量117t、タイヤ34本というダブルストレーラーが疾走する姿は圧巻。私道なので日本の道路交通法の適応外となり、独自のルールで運行、ナンバープレートも一般的なものをつける必要がありません。私を乗せた観光バスも許可を得て走行。途中幾台ものダブルストレーラーとすれ違いました。

また、説明を聞いて驚いたのは様々な廃棄物をエネルギーやセメントなどの資材に変える同社の技術です。ほとんどの廃棄物の成分はセメントの成分に近いため原料として再利用。高カロリー廃棄物は熱エネルギー代替に利用されます。同社では年間300万t以上の廃棄物・副産物をリサイクルしているそうですが、セメントの原料では都市ごみ焼却灰どころか、工場排水や建設の汚泥に加え、私たちが排泄したし尿までも無駄なく原料になるとか。大阪のし尿も引き受けていますよとの説明に、思わず笑みがこぼれました。人間の知恵とは大したものです。

宇部興産は19世紀末に当時まだ小さな村に過ぎなかった宇部の人々が出資してつくった匿名組合組織「沖ノ山炭鉱」から始まります。しかしながら他の炭鉱の石炭にくらべ品質があまりよくありませんでした。「だったら何とかしようじゃないか」と、「仕方がない」と思わずに、宇部の人たちはがんばったのでしょうね。「いずれは掘り尽くしてしまう有限の石炭を、子孫に恨まれ無い様に、地域に永く繁栄をもたらそう」と、創業者の渡辺祐策翁を中心に、新しい技術の研究と事業の展開に取り組みました。宇部の石炭と豊富な石灰石を活用しつつ、掘り出した後の廃土を活かして広大な埋め立て地を臨海部に確保。これにより船の接岸が容易になり、セメント事業が発展しました。また石炭を原料として、肥料となる硫安を製造するなど、宇部の石炭が劣る部分を補っていきます。同社の設立は1897年。約120年前に100年先を見通し、「工業の無限の価値」に展開させようとした精神と努力は、見事に花が咲いたのです。陸上輸送を容易にする日本一の私道や、汚泥や煙りまでも無駄にしない徹底したリサイクル技術、宇宙船の耐熱材料からハイテク機器の素材、医薬品の開発などにもつながっていきました。今や量産技術から最先端技術まで、まさに「無限の価値」を生み出していることに感服しました。

同社だけでなく産業観光ツアーが日本の各地で行われ人気を集めているようです。我々の先人たちの知恵と努力、精神は素晴らしい。それはいいことばかりではなくて公害や環境破壊など負の面もあるでしょうが、それも含めて、その軌跡から学ぶことは多いと思います。工業というと無機的な印象がありますが、そこに働く人々のエネルギーが先人から受け継がれ、見る者の心に響く。そんなことを想いながら宇部の町を後にしました。

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