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理事長だより

Vol.6 「想像力を持ち生きる力を」

9月1日は「防災の日」です。昨年、京阪神にも地震と台風が直撃、自然の驚異を皆さんも実感したことでしょう。自然災害は人智を超え必ず起こります。そのため日ごろから一人ひとりが防災の意識をもつことが必要です。 その意識をもったお蔭で多くの命が助かった釜石市の小中学生の話を紹介します。

2011年3月11日東日本大震災の日、岩手県釜石市は大津波により、甚大な被害と1000名を超える命が奪われました。そのような中、市内14校の小中学生99.8%、約3000名の児童・生徒が生き抜いたのです。なぜ、助かったのか。それは防災研究の第一人者群馬大学片田敏孝教授(当時)が、10年近く釜石に通い、地元小中学校の先生方の理解を得て、ともに徹底した防災教育を行ったことによります。実のところ過去にも大津波に襲われているこの地域ですら、防災の意識が薄くなっていたようです。そこで固定観念にとらわれた大人ではなく、小中学生に防災について教えることで家庭でも話題になり、大人にも理解が広まってほしいとの想いで教えていました。

片田教授の本「人が死なない防災」によると、教授が提唱する「避難の三原則」を軸に伝えたそうです。その一つ目が「想定にとらわれるな」。ハザードマップで大丈夫なところでも、“絶対”安全という訳ではありません。二つ目は「最善を尽くせ」。そして三つ目が「率先避難者たれ」。最初に逃げる?と思うでしょうが、人間には「自分は大丈夫」と一生懸命思い込もうとする「正常化の偏見」という心の作用があるそうです。非常ベルが鳴っても動かない。最初のネガティブな情報を無視する傾向があり、「火事だ!」と第二の情報でようやく動くというのです。

釜石市14の小中学校のひとつ釜石東中学校では、率先避難者になったのが校庭にいたサッカー部員たちでした。彼らの「津波が来るぞ!逃げろ!」という声を聞き、隣の小学校の生徒たちが走り出し、大人たちも動いたそうです。しかし安全とされていた避難場所までたどり着いたものの、裏のがけが地震で崩れかけているのを見た中学生が、ここも危険と小さな子やお年寄りの手を引いてもっと上の高台まで逃げました。どうにか上の建物にみんなが逃げ込んだ30秒後に津波が手前まで到達。あのまま最初の避難所にいたら…。まさに間一髪でした。

私はこの釜石のことは、災害だけではなく生きていくうえで起こる様々なことにも当てはまると思いました。平穏な日々が突然もろくも崩れることは、誰にでも起こり得ることです。想像力を張り巡らして先を読む。“生きる力”を皆さんにも身に着けてほしいと願っています。

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